■日本語のバイエルが生まれるまで その2


▼文章が上手な人とは自分で自分の文章が直せる人

前回、言葉を習得していく過程を見ていると、どうも、基本形、標準形に立ち返ることが重要だと思われるのですよ…という話をしました。

言葉に障害が残った方々の回復を見ていると、本来省略するような言葉を、一つ一つ確認するようにお話する様子が印象的でした。こういう方のほうが、言葉の回復が着実で早いように思います。もちろん、障碍のありかたは複雑ですから一般化がどこまで出来るのか、それはわかりません。

しかし、子供の作文の進歩においても、類似の傾向が見られるのです。作文がどんどん書けるようになっていく小学1年生は、「私はどうした」「何がどうだった」「誰が何をどうした」といった基本的な文型をまず身につけていくのです。

基本に立ち返って文章をチェックする基準をもっていただけたら、ビジネス人をはじめ多くの方々に、効果があるのではないかと思ったのです。もちろん基準をつねに気にしていたら、息がつまります。普段は、あまり気にしないでおもいのまま文章を書いていたほうがよいですね。しかし、ふと気になったとき、自分の文章を直す基準があったら安心なのではないでしょうか。

文章が上手な人というのは、自分で自分の文章が直せる人だと思います。自分で自分の文章をチェックできることが大切なのではないか、ということです。

しかし、日本語の文章の「標準」といわれても、そんなに簡単に明示できるものではありません。文章の修正やチェックの仕事を、私もしてきましたが、私に限らず、この種のことをおやりになる方は、皆さん自分ルールを持っています。しかし、それぞれが違うルールですから、標準ということにはなりませんね。

どちらかというと自分流の直し方のテクニックなのです。ヘタすると、単なるこだわりだったかもしれません。これではいけません。

標準とか基礎的な形とかいう場合、もっと根本的なことから掘り下げて考える必要があるように思います。言葉とは、どういうものであるのか、という基本的なところから、もう一度考える必要があると思います。

 

▼言葉とはどういうものか

言葉というのは、どういうものなのでしょうか。明確な定義が与えられているわけではありません。多くの場合、言葉とはコミュニケーションの道具であるという認識がなされています。どうも違和感があります。

言葉について、村上陽一郎『あらめて学問のすすめ』の中に、とてもわかりやすい説明があります。

人間だけが言葉を持っている、そう私たちは考えがちです。しかし、少なくともコミュニケーションの手段としての言葉ならば、多くの動物が(鳥類も含めて)持っています。ただ、これらの「言葉」は「分節化」されていないこと、また「構成的」ではないこと、この二つの点で人間の言葉と異なります。

人間の言葉という場合、「分節化」と「構成化」が必要だということです。これなら非常によくわかります。いや、わからないですね。いきなりここだけを切り離して言われても、何のことやら…となりますね。解説のつづきを聞きましょう。

分節化(articulation)とは、記号の連なりに、単位があることです。そしてこのことから生まれるのが「構成的」ということです。つまり分節化された記号の連なりは、それを切り離して、さまざまな形に新しく組み直すことが出来るということです。

この解説は明確です。ちょっと説明いたします。わたし達は、周りの世界を見ています。その周りの世界から、何かを切り取って一単位にします。切り取った最小単位は、単語だろうと思います。その単語をつなげていくことが、構成するということです。単語を組み合わせて並べていくことによって、表現が出来るようになります。出来上がった表現こそが、言葉だということです。

言葉は、私たちが世界をどのように認識するか、というその認識の枠組みを与える働きをするものです。そして、一つの言語が、一つの認識の枠組みを提供するのであれば、その言語を使う人々の間では、同一の世界認識が成り立ち、だからこそ、お互いのコミュニケーション(共通の理解)も可能になる、という仕掛けです。言葉は、先ずは認識の枠組みを提供するものです。

私には、この説明が一番しっくり来るのです。「分節化」と「構成化」によって、言葉は成立します。各言語ごとに、「分節化」と「構成化」のルールが違います。日本語における、その「分節化」と「構成化」のあり方を見ていくと、日本語の特徴がわかってくるはずです。

日本語は、どんな特徴をもっているのか。それを踏まえたうえで、日本語の標準的な形を考えたいのです。「分節化」「構成化」という用語では、抽象的でわかりにくいと思います。しかし、日本語の標準的な形を考える上で、とても大切なポイントです。

日本語に即して、ていねいに見ていきたいと思います。そうすると、標準形とか基本的な形というものが、うかびあがってくるだろうと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA